IL PO
2018
北イタリアに流れるポー川は全長652キロのイタリア最長の川だ。7万平方キロに及ぶ流域を持ち、141の支流が流れ込むこの川は、西はフランス国境、東はアドリア海にまで広がる、パダーナ平野をつくりだした。ヨーロッパ有数のこの豊かな土地には、イタリアの全人口の約3分の1、約1600万人余りの人々が暮らしている。
イタリアを縦断するこのイタリア最大級の河川であるポー川は、イタリア人にとってまさに母のような象徴的な川でもあり、ポー川流域においてイタリア全土のおそよ55%の畜産業と農業生産の35%を占め、国内総生産の占める割合が40%にも及ぶ。この川は、まさにイタリアの経済を支える存在とも言えるのだ。
私はイタリアにおいて文化的にも経済的にみても非常に大きな役割を果たしているこのポー川を、その源泉であるMont Visoから始まりやがてアドリア海に流れ着くまでの過程を約45日かけて移動した。その旅のなかで、流域にある村や町や、ポー川の経済を支える様々な工業地帯の他、ポー川の歴史において重要な意味を持つ場所や人物の元を訪れた。それは川と人間がどう関わり、人々の暮らしや社会にどう結びついているかを見るためであった。
海の水は蒸発することで雨になり陸へと降り注ぐ。太陽熱によって蒸発した陸地の水も雨になり、再び海へと還る。我々が普段何気なく目にしている水は完全なるサイクルを成している。
植物や動物、人間たちすべての生命の営みに必要不可欠である水は摂取され、そして再び外へと排出される。
仏教には生命の魂は転生し、永遠のサイクルのなかにあると考えられている輪廻転生という概念があるが、川、海、ひいては”水”を見るという行為は、その終わりなき循環に思いを巡らすことでもあり、どこかこの仏教の思想とも通じるものがあるように感じた。水の循環はすなわち命の循環でもあった。
旅の中ではいろいろな人と関わりながら撮影し、街を跨ぐたびに風景が変わり、食べ物も変わる。多くの人が家にも招いてくれワインや手料理を振る舞ってくれることも多々あった。山から海までの旅は食の旅でもあったが、今ではこのような移動なんて到底できないと感じるのと同時に、水は経済や文化、様々なものを運び潤滑油になるんだということも改めて体感した。