Mountain line Mt. Everest
2019
2018年の5月、23日間かけてエベレスト街道という道を歩いた。その道は多くの登山家が地球上でもっとも高い山の頂を目指すために歩く道だ。
私はルクラという2860メートルの場所から約1000メートル下った街から、エベレストベースキャンプまで行き周辺の山に登り約6000メートル近くの場所まで歩いた。カメラ機材や約300本のフィルムをアシスタント、シェルパと共に担ぎ撮影に向かった。
今までの撮影は比較的一箇所に拠点を設けて動くという撮影であったのに対し、この時の撮影では山小屋から山小屋への移動だったのでまとめた全ての荷物を持ちながらの移動で慣れない部分もあり大変だった。酸素の薄い高所での撮影では高度順応など登山に集中することと、写真を撮るという行為に集中することが同じくらいの重要性を持っていたことには他の環境での撮影とは大きく異なっていた。
そもそも山への興味は、10年以上都市をフィールドに作品制作をしてる中で都市と川の存在に興味を抱いたところから始まった。都市の形成には、遥か前からそこには水脈があり、人が集まり、やがて物流や文化が生まれるという歴史がある。
ロンドンのテムズ川だったかアムステルダムの運河だったかは忘れたが、以前長旅で少し孤独を感じながら歩いていた時に、水の流れを見ながらなんとも言えない安堵感に包まれた。現在そこに住んでいる人も、また何百年も何千年も前の人もおそらく同じ水の流れを見ていたのではないかということを想像すると、都市というものの印象が一変し有機的で血の通った、まるで生き物のようだと感じた。その時感じたことがきっかけで、都市に限らず水の始まりから終わりまでを見る旅をしたり、自然を被写体として選ぶようになっていった。
私の作品では歩くことや移動することなど、身体的な行為を写真によってどう可視化するかということを表現の根幹においているが、この山の旅も同様の試みであった。
山での撮影において最も力を注いだのは、多くの人々が求めるエベレストの山々の勇敢で象徴的な風景ではなく、トレッカー達がどのような道を歩きどのような風景を見ているか、また山に住む人々やシェルパ族の人たちがどのように暮らし、山とどのような関わり方をしているかを見ることだった。