A Journey of Drifting ice

2019

北海道の東の果てにある知床半島という場所は世界自然遺産に認定され多くの観光客が訪れる名所である。豊かな自然が四季を通じて様々な表情を見せることで有名だが、中でも冬になると流氷が知床の海一面に広がりを見せる。

2019年1月、その流氷の起源を辿る旅に出た。まずオホーツク海沿岸にある流氷の始まりの街マガダンへ訪れ、続いて知床で撮影をした。

マイナス20度から30度にもなる土地を毎日6~7時間ほど歩きながら、流氷やそこに暮らす人々や街の風景を撮影し、マガダンと知床の両方からオホーツク海を眺めた。

巨大な氷の塊は無数に浮遊し、海一面に広がり近づくとギシギシと音を立てる。その様相にはとても驚いたが、日本の中でも比較的温暖な土地に生まれた私は、寒い土地の環境について知らないことが多かったし、そもそも流氷というものが何なのか、一体どうやってできるものなのかも分からなかった。

リサーチしていくうちに流氷は海の水から生成されるものではなく、ロシアを流れる大河アムール川の真水が季節風によって冷やされることでできるということを知った。大量の凍った水がオホーツク海を覆い、それが流氷として南下して日本にやってくるのだ。

流氷の裏側に付く植物プランクトンは日光を浴び繁殖する。すると動物プランクトンが植物プランクトンを餌にすることで大量に発生し、それを小魚が食べ、さらに大きな魚がその小魚を食べに来る。このように流氷によって食物連鎖が起こり、オホーツク海の豊かな生態系を育んでいるのだ。しかし、温暖化や気候変動の影響でオホーツク海の流氷は年々減少をしているらしい。

このプロジェクトは知床の斜里町によるアーティスト招聘プログラムの一環として行われたものであったが、知床という街を知ることが、遠く離れたロシアの対岸まで足を運ぶことになるとは思ってもみなかった。人間社会の制度の中で国という線を引くことによって隔てられた二つのロシアと日本という土地は、自然界で起こっている現象を通して考察すると、そうした概念や現在の国家間の様々な社会問題を軽々飛び越えてくれる存在であった。

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A floating tree